「鉛の心臓」感想

大大大大好きな関口様の復帰作、ようやく感想書いたドン!!(4ヶ月ぶりの更新)

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作者:関口様
配布サイト:http://jackbox.at-ninja.jp/
総プレイ時間:攻略を見ながらフルコンプ3~4時間くらい

 

かつて神童と謳われた兄と、そのつまらない妹の話。

 (公式サイトより引用)

 

超絶ざっくりあらすじ
叔父の家に兄・辻村綾乃と二人で暮らす主人公は、高校で年下の幼馴染・江西航平と再会する。かつてのままに、兄弟のように接する航平。奇妙な距離感と壁のある兄。穏やかなクラスメイト。部活仲間。数々の人との交流の中で主人公は少しずつ変わってゆく。

 

かつて「DollyDoll」という最高にエモいサイコ近親乙女ゲームを作られた関口さんによる、今回も近親キャラ有り乙女ゲームです!!
私は好きなフリゲ製作者さんを一人答えろと言われたら奇なりさんと関口さんのお二人の名前を挙げます(支離滅裂)
今回いつにも増してとっちらかった感想文になってしまっていますが、まずこんなブログを読むより先に鉛の心臓を今すぐダウンロードしてください、全人類へ。

 

「鉛の心臓」を私のようにヤベエ近親ゲーム!?やるっきゃなーい!みたいな、こう、近親ものをジャンクフードのようにムシャムシャ食べたい気持ちでやると死人になります。というのも、(公式的には)3人いる攻略キャラクターのうちの1人はたしかに兄で、近親で、バクモエですが、残りのキャラクターも近親もので慰め程度にいるサブ攻略対象などでは決してなく、むしろメインのステーキだからです。全員ステーキ。攻略見ながらとりあえずモブぽいのからやるかと思ったら、いきなりステーキ。


それと、ヤンデレを期待するのはかなり違います。わたしの感覚だとこのゲームに病んでるキャラはまあまあいますがヤンデレのキャラはいません、強いて言うなら主人公。このゲームの良いところなんですが、「主人公に誰かを近づけたくないから」他者を傷つけようという安直な設定の野郎は一人もいません。
このゲームで一番キャラクターが濃いのははっきり言って主人公です。主人公は兄を盲信し崇敬し妬んで愛しんでいます。感情のメリーゴーランドです。一方で驚くほど滑らかに感情移入できるキャラクターでもあります。
この文章を読んでいる人は高確率で何らかのオタクだと思います。生きていく上で、誰かと出会って電流が走ったことがある人が多い気がします。恋でも何でもなくて、刷り込みに近い感じの、遺伝子レベルでこの人に逆らえないなあと思う人いません?一瞬だけでもこの推しのためならお金も身体も投げ出せるという感覚を、「鉛の心臓」では言語化します。思考という限りも形もないものを言語に落とし込むのに、このゲームでは何一つ情報を剥落させません。だから文が私というプレイヤーの思考回路と直結して「主人公は間違いなく私である」と素直に受け止められるわけです。


そしてこの、感情移入できるという長所を損ねることなく、プレイヤーと主人公の思想の乖離から来るもやのかかったような不安を楽しむこともできます。主人公の精神状態は正直まともではなく、そして文が主人公視点で進む以上、すべての物事にバイアスがかかっています。主に兄/航平ルートで分かってくる、「かみさまのこども」と信奉される兄の姿。微笑みは静謐な夜の雪、と、兄の辻村綾乃は説明されています。私が30000年石の上に座っても出てこない天才ワード!!しかし航平は引きこもりのニートだとバッサリ両断し、また、プレイヤーの目からもおぼろげにその輪郭は掴めていきます。
以下はキャラクターごとに分けた感想です。多分にネタバレを含むのでできればプレイしてから読んでほしいの気持ちです。

 

辻村綾乃
兄ルートを終えると改めて、「主人公視点で眺めていた兄」が、実際の兄とは大きく異なるのではないか?と思います。普通の人が満遍なくステ振りするところを、顔面とピアノに極振りしてしまった人類が辻村綾乃です。
ED05は糖度こそ低いですが、間違いなくハッピーエンドです。兄の妹、と認識されることが怖くて仕方なかった主人公が、友人に兄を紹介できるレベルになります。「あなたに笑える私になった。」という一文が主人公を主人公たらしめていて、このゲームは間違いなく、一人の少女の成長譚でもあると確信を持って言えます。

そして、綿貫くんの存在。公式サイトでは兄ルートの一部に分類されていますが、ED06は剣道部の後輩・綿貫くんルート、と呼ぶのが正確かと思います。何というか、少女マンガの完璧な王子様では決してないけれど、主人公の手を引いて明るいところへ連れて行ってくれる存在です。

ED07は主人公の内面に沈んでいた黒い部分が一気に発露された結果、なんですが上手い方向に進んでいく終わり方なので後味は悪くないです。妹(主人公)がおかしいのは、私たちがプレイヤーとして彼女の視点から物語を眺めている以上既知の事実ですが、妹に襲われてもなお「お前を抱きしめられる腕があって良かった」という兄。この兄妹がふんわり普通の家族と異なっていることが、でもそれが決して間違っている形ではないことが、プレイして感じられました。

兄は主人公を聖母のよう、と形容しましたが、「お前が悪魔でも好きだよ」と囁く兄の中に、私は聖母を見ました。他人の感情の機微に疎いところとかもなおさら。

 

江西航平
兄ルートに分類されてるけど完全に個別ルートの綿貫くんとは逆に、航平ルートは乙女ゲームとはちょっと一線を画しているかな、という感じです。正規EDとされているED01は航平と恋愛どうこう、ではなく「三人がそれぞれ自立した人間として共に生きていく」エンドです。

そもそもゲーム内で航平から主人公に対する恋愛感情も、主人公から航平に対する恋愛感情も(あくまで私の目線では)まったくなく、そこにあるのは依存というより、互いのそばにいるのが当然、という思い込みあるいは希望的観測です。いい意味であっさりしたキャラクターで、その割り切った思考は主人公と対をなしていて非常に魅力的でした。

 

浅野清文
わたしは彼のルートから始めました。公式サイトを見てどろどろエグヤバ兄弟模様…みたいなのを想像していたわたしは、浅野くんのルートで爽やかしゅわしゅわサイダーの多量摂取で幸福死しました……。

 ED04は浅野くんルートというかノーマル(主人公自立)エンド、ED03がちょっと糖度高めですがここで出てくる兄は他ルートと若干毛色が異なります。他エンドの主人公が自分の内側から溢れる兄への信仰心でうまく息ができてないとすれば、ED03の主人公は兄からの愛で息ができてないです。浅野くんのことを好きだと自覚しているけれど、神様である兄の、恋慕とは似て非なる愛情は主人公にとって重すぎて、簡単には抱えられません。アフターストーリーを読んで、いつかその荷物をきちんと、正しい意味で降ろせたらいいなと思いました。ちなみにED03の兄にも聖母が見えました。なんちゅーか、ダークサイド聖母……。

 

できれば時間のあるときに一気にプレイしてほしい作品です。甘さよりも登場人物の繊細な内面、人の成長に重きを置いているように感じます。ほんっと~~~に良作of良作……。どうか主人公、綾乃、航平、浅野くん、綿貫くん、歩美ちゃん、ひのきちゃん、百合子、みんなみんな幸せに、ひたむきに生きられますように。

 

(次の更新予定について)
次の記事ですが、どうやらフリー乙女ゲームの中でもヤンデレ作品を探している方が多いぽいので、ヤンデレ系作品のまとめを書きたいなと考えています(ただ製作者の方は自分の創造したキャラクターをひとくちにヤンデレと括られるのは不快かな……と悩んだり)。それから「聖なる夜の忘れ物」が非常にクオリティの高い作品で面白かったので単独感想を書きたいマンです。また、SNOWEAGLEが攻略つきで再配布されているのも知って今度こそフルコンせねば!という気持ちです。

フリー乙女ゲーム界、サイコ~~~~!!